ダヴァオ紀行:その13 レチョン (写真をクリック⇒拡大)
ご馳走と言えばレチョン:フィリッピンと言ったって、7000の島から成る国だ。それぞれの地方に独特の料理が有る筈だが、このレチョンだけは何処に行っても人気がある。勿論、専門店もあるだろうが、ダヴァオでは、普通の家が、注文に応じてレチョンを焼いている。こんな場合は大抵、何かのお祝い用で、30キロ前後の小さめのブタが使われる。フィリッピンでは、家族の絆が強く、お祝い事となれば、戦前の日本がそうだったように、30人前後の親類がすぐ集まる。食べ物の主役は、必ずと言っていいほどレチョンだ。ブタが一匹ごと丸焼きになり、テーブルの上にドーンと置かれれば、その存在感は抜群だ。その上、子供達の前で刀のような包丁を使って、切り分ければ立派なショウになる。日本でよくスーパーマーケットが客集めに”マグロの解体ショウ”をやるが、その豪快さに似ている。土曜と日曜は定期的に目方売りのレチョンが焼かれていて、平均的な家庭では、この焼いたブタが一週間に一度の贅沢なのだろう。
生きたままのブタを仕入れる:ぶらり立ち寄った日は土曜の夕方だった。奥さんの姿が見えないので、聞いてみると明日はレチョンの注文が沢山入っていて、マーケットにブタを仕入れに行ったとのことだ。程なく、狭い未舗装の道に面した門前にトライシクル(バイクの後ろにリアカーを付けたような乗り物で普段は人を乗せている)が止まり、生きたブタを降ろし始めた。親父と息子二人が、ブタを抱いて、柵で仕切られた一畳ぐらいのところに5・6匹ずつ、二箇所に分けて入れた。最初の10分位はキーキー鳴いてうるさいが、すぐに静かになった。数えてみると11匹もいる。明日の日曜日に、これを全部レチョンに焼くそうだ!焼く時間を聞いてみると40~50キロの目方売りにするブタで4~5時間かかり、30キロ前後だと3時間程度だと教えてくれた。そんな訳で、明日は、朝6時から仕事を始めるそうだ。娘さんが追加のビールを冷蔵庫から出して来たところで、遅くなっては気の毒なので、早々に引き上げてきた。
翌朝10時:レチョンが焼き上がったと迎いがやって来た。家の前には、30人位が行列を作り、衆目監視の中でブタの解体が始まった。親父が刀のような包丁で、焼きあがったブタを豪快に骨ごとぶった切る。細かい皮や骨・肉が飛び散るが、お構いなしだ。奥さんが骨付きの肉を素早くビニール袋に入れ、目方を計ってお客に渡す。息子がそれを見ながらノートに記帳している。どうやら現金で買う人と、後払いの人がいるようだ。奥さんが、お使いで来たらしい小さな女の子に、センベイのような、皮のかけらを上げると嬉しそうにしゃぶりながらレチョンを抱えて帰って行った。
家の裏では次に焼く、生きたブタの処理が始まっている:マタドール(本当は闘牛士と言う意味だと思うけど?)と呼ばれる若者が、生きたブタを足の間に挟みつけて固定。硬そうなバットのような棒で脳天を一撃。見事に仕留めると、頚動脈を切り裂き、膝でブタの腹をしごきながら、血を抜く。この血も後で使うそうで、殺したブタは全て食べつくされて、捨てるところは無い。
アゴの下から、でん部まで綺麗に裂かれたブタは内臓を抜き取られ、次は毛を剃るアンちゃんに引き継がれる。両刃のカミソリを指の間に挟み、砥石を横に置いて、鮮やかに毛を剃っていく、その剃り上がりの綺麗なこと!ブタの皮がピンク色に光って見える。後は抜き取った内臓の換わりに調味料で味付けした香草・野菜をたっぷり詰め込み、アゴの下からお尻まで太い竹を通して、火に強い糸でお腹をしっかり縫い合わせる。これが終われば、ヤシの炭でジックリ焼き上げて出来上がるのだが、焼く係りは、また別の若者で、35度近い暑さの中を、汗もかかずに4時間、焦げ目が付かないように竹の棒を回し続ける。
客もすっかり居なくなると、火の後始末で仕事が一段落。手伝っていたアンちゃん達が引き上げて行ったところで、レチョンを肴に冷たいビールで”お疲れ様”の乾杯となった。それにしても見事な分業で、手間のかかるレチョンを作り上げる技に感動し、薄味で脂身の少ないブタ肉の美味しさとビールの相性を堪能したのでした。
コメント
マタドール・・・キリシタン戦国武将・高山右近がマニラに流された頃は確かフィリピンはスペイン領なので、その頃の名残なのでしょうか?そう考えるとフィリピンの歴史を感じる言葉ですね・・・。
投稿者: gun_gun_G | 2007年09月04日 23:10